二、三日まえ僕は、あるフランスの大臣が獄中で書いた日記を読みました。その大臣は、例のパナマ疑獄で有罪になった人です。それがね、じつに陶酔的な感激口調でもって、獄窓から眺めた小鳥のことを述べている。大臣をしていた頃は、気にもとめなかった小鳥のことをね。もちろん、出獄した今となっては、また元どおり、小鳥なんか気にもとめないにちがいない。それと同時にあなたも、いざ住みついてみれば、モスクワなんか目につかなくなりますよ。幸福は現にわれわれにもないし、またそのへんに転がっているものでもない。ただ願い求めるだけのことですよ。
- チェーホフ『桜の園・三人姉妹』(新潮文庫)
神西清 訳
p191-192 「三人姉妹」第二幕より、ヴェルシーニンの台詞