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完璧ですね これはいただけません

二、三日まえ僕は、あるフランスの大臣が獄中で書いた日記を読みました。その大臣は、例のパナマ疑獄で有罪になった人です。それがね、じつに陶酔的な感激口調でもって、獄窓から眺めた小鳥のことを述べている。大臣をしていた頃は、気にもとめなかった小鳥のことをね。もちろん、出獄した今となっては、また元どおり、小鳥なんか気にもとめないにちがいない。それと同時にあなたも、いざ住みついてみれば、モスクワなんか目につかなくなりますよ。幸福は現にわれわれにもないし、またそのへんに転がっているものでもない。ただ願い求めるだけのことですよ。

- チェーホフ『桜の園・三人姉妹』(新潮文庫)

神西清 訳

p191-192 「三人姉妹」第二幕より、ヴェルシーニンの台詞

チェーホフ ロシア文学 戯曲 モスクワ 三人姉妹

私の大好きな言葉で、アメリカの心理学者ノーマン・ブラウンの、次のような含蓄のある言葉がある。それは、人間文化や芸術活動のひそやかな目的は、「失われた子供の肉体を少しずつ発見して行くこと」にほかならない、というのである。

澁澤龍彦『幸福は永遠に女だけのものだ』(河出文庫)

p62 聖母子像について

澁澤龍彦 エロティシズム

腹のなかでハワイアン・ギターをかき鳴らすものたちはいったいどこにいるのだろう。大地はホコリタケのような人間たちがうじゃうじゃ繁殖する腐ったキノコ畑であり、ガスと粉塵で膨れ上がったキノコ人間たちは、棒でつついただけで破裂する。くそったれ!

エルネスト・ド・ジャンジャンバック『パリのサタン』(風濤社)

鈴木雅雄訳

p14 より

シュルレアリスム フランス文学 アンドレ・ブルドン ジャンジャンバック パリ サタン
エディー・マーズが言った。「こいつが銃を持っていないか、調べろ」
金髪の男が短い銃身のピストルを取り出し、私に向けた。ボクサーあがりがはたはたとした足取りで近くに寄り、私のポケットを念入りに探った。私はイブニング・ガウンのモデルをしている退屈した美女よろしく、彼のために身をひねってやった。
「銃は持ってません」と彼は滑舌の悪い声で言った。

レイモンド・チャンドラー『大いなる眠り』(ハヤカワ文庫)
村上春樹訳

p115-116 ガイガーの殺人現場にて

レイモンド・チャンドラー 村上春樹 アメリカ文学 大いなる眠り フィリップ・マーロウ
私はしこたまウィスキーを飲み、晴れない心でベッドに入った。そして血だらけの中国服を着た男が、細長い翡翠のイヤリングをつけた裸の娘を追いかける夢を見た。私は二人のあとを追って、その写真を撮ろうとしていたが、そのカメラにはフィルムが入っていなかった。

レイモンド・チャンドラー『大いなる眠り』(ハヤカワ文庫)

村上春樹訳

p66 殺人現場を見た夜のフィリップ・マーロウ

レイモンド・チャンドラー 村上春樹 大いなる眠り アメリカ文学
すぐ目の前に、ドアを開け放った船室への入口が見え、鈍く光る傷だらけのリノリュームの廊下が見え、一ト曲りして下へ降りる階段の鉄の手摺が見える。その人のいない短い廊下が、どんな遠い航海の海上でも決して人の身から離れない人間生活の凍った日常性を暗示している。白い果敢な巨船の中で、そこだけが、どこの家にもある、退屈な暗い午後のさびしい廊下の一角を代表している。人の乏しい、老人と少年だけのだだっ広い家の廊下のように。

三島由紀夫『天人五衰 豊饒の海 (四)』 (新潮文庫)

p220-221 本多と透、港の父子。

三島由紀夫 豊饒の海 日本文学 新潮文庫

秋浦多白猿
超騰若飛雪
牽引條上兒
飮弄水中月


秋浦に白猿多し
超騰すること飛雪のごとし
条(えだ)の上の児を牽引し
飲んで水中の月を弄ぶ


秋浦には真っ白な猿が多い。
跳びはねるさまは、舞い散る雪のよう。
木の枝の小猿を引きよせては、
水に映る月影を飲みほすようにじゃれている。

松浦友久編訳『李白詩選』(岩波文庫)

p25 秋浦歌 其の五

李白 詩仙 中国文学 岩波
知らないということが、そもそもエロティシズムの第一条件であるならば、エロティシズムの極致は、永遠の不可知にしかない筈だ。すなわち「死」に。

三島由紀夫『暁の寺 豊饒の海(三)』(新潮文庫)

p231 ジン・ジャン(月光姫)、死の空へ架ける虹。

三島由紀夫 豊饒の海 日本文学 エロティシズム